中国向けに情報を発信していると、
「日本語をそのまま中国語に訳せば大丈夫ですよね?」
という場面にしばしば出会います。
しかし、小紅書(RED)を運用していると、
“正しい翻訳なのに反応が取れない” という現象が頻繁に起こります。
なぜなら、中国のユーザーは「意味」よりも、言葉が持つ温度や情緒の質感に敏感である為です。
日本語には、曖昧さや余白の美しさがあります。
対して中国語は、より直接的で、情緒や体験イメージが鮮やかに立ち上がるほうが好まれます。
だからこそ、翻訳として正しくても、感情に届いていない言葉は“情報のノイズ”として魅力が宿らなくなってしまうのです。

たとえば、日本の観光PRでもよく使われる「絶景」。
鉄板のキーワードですが直訳の「絶美」と訳しても小紅書ではそれほど強い反応を生みません。
それよりも「出片(映える)」「氛围感(雰囲気がある)」
といった、体験を想像させる言葉のほうが圧倒的に保存数も伸びやすくなります。
背景には、写真映えこそがSNS文化の価値基準という、中国独自の美意識があるからです。

同じく「落ち着く」も翻訳の落とし穴です。
直訳すると“静まり返った場所”というニュアンスになり、観光地の魅力としては弱く聞こえてしまいます。
一方、「治愈(癒される)」「舒服(心地よい)」
といった言葉に変えるだけで体験の心地よさを直接伝え、小紅書では反応が良い表現となります。

さらに、日本ではポジティブな「穴場」も、
そのまま訳すと
“不人気で不便な場所”と誤解されるリスクがあります。
その場合は「小众但很值得(マイナーだけど価値がある)」など、
言い換えで価値を補う必要があります。
こうした例は、小紅書のフィードを眺めれば無数に出てきます。
そして共通しているのは、どのキーワードにも
“体験がイメージできること”
“写真映えが連想できること”
“感情を直接動かすこと”
の三つが備わっている点です。
結局のところ、中国人に刺さるキーワードとは、
意味が通じる言葉ではなく、心が動く言葉 です。
翻訳の精度より、文化に根ざした感性の翻訳こそが成果を左右し、
中国向けプロモーション成功の分岐点になるといえるでしょう。

